灰谷歩さんインタビュー

 『けん玉をはじめよう』の記事で、話を伺った、墨田区におけるけん玉ブームの火付け役、灰谷歩(はいたにあゆむ)さん。墨田区京島の飲食店、「halahelu」と「muumuucofee」を経営している。

笑顔が最高の歩さん

音楽からバリスタの道へ

- 歩さんのことを聞かせてもらってもよいですか?

音楽の専門学校を出たあと、10年以上バンドをやってる。オーストラリアにバンドで自費ツアーをしに行った時に、自分たちの音楽も受け入れられて、とても楽しかった。それから旅行や再度ツアーに行ったりしているうちに、向こうにも友達が沢山できて、音楽をやりながら生活できそう!って思って、2年間弱のワーキングホリデーに行くことにした。その間、今までやってたバンドの活動はストップさせないで、東京とオーストラリアで二箇所で同じ曲をやったりしてた。

オーストラリアでは、日本と違うことも当然あって。例えば、仕事を定時で上がって、家に帰ってご飯を食った後に音楽を演奏しに、または聞きに遊びに出かける。日本だとライブが19時スタートとか多いけど、オーストラリアだと21時くらいの遅めのスタートだから、仕事を休まなくてもローカルバンドはライヴが出来る。コンパクトな街で、自転車で大体どこでもいけるし、少し飲んでも車を運転できるから(今は知らないけど当時は)、終電も気にしないで日付が変わるくらいまでやってる感じ。経済的に負担があまりなく、無理のない音楽活動が可能で、音楽と生活もすごく密着してるように感じた。

じゃ、僕も個人的にそういうことをできないかなー、夜の時間を音楽活動に当てられる職業なんだろうって考えた時に、バリスタだ!って思った。メルボルンのカフェは5時とかには閉まる。働き方もオールラウンダーよりも専門職、ウェイター、ディッシュウォッシャー、シェフ、バリスタ、みたいに分かれてて。興味ない仕事を覚えなくても済む、色々できない僕に向いてる。
マニュアル通りの自分の言葉じゃない接客は僕はものすごく下手くそで。全然コミュニケーション取れなくなっちゃう。でも、コーヒー作って、お客さんとコミュニケーションとることは、大事なことで、自分のやり方でなら出来ると思っていたからバリスタになろうと思った。
ワーホリの間はサンドイッチやさんでバリスタとしてちょっと働いた。英語は大して話せないから雰囲気で頑張ったよー。
日本に帰って、バリスタ職を探したけど、いきなりバリスタとしてお店に立てることはないから、結局家で練習したり、バリスタとして立たせてくれるとこで働いたりしてるうちに、muumuucoffeeの物件が現れて、借りて、マシーンも買って、自分のお店を始めて、それからキャリアスタートって感じなのかな。

- もともとは音楽活動をするためにバリスタを選んだんですよね?

そう。もともとコーヒーも好きだったのもあるけど。
でも、墨田区に越して来てはじめに思ったのは音が出しづらかったこと。木造長屋って、壁も一枚ですぐ隣の生活音が聞こえるから、レコーディング時に不要な音をシャットダウンできない。静かになったら、今度はこっちの音が周りに聞こえるからそれもやりづらい。で少し音楽環境から離れてしまって、お店初めたら、友達も沢山できて楽しいお誘いも増えて、やがてけん玉にもハマっちゃったから、ほとんどの時間を音楽よりもけん玉やみんなと遊ぶ時間に当てるようになった。正直に自然にしてたいな~って思ってるから無理に音楽に戻ろうとは思っていない。また自然と音楽やりたくなる時が来るだろうし、そしたらその時やるだろうって。

お店を初めて一年ほどで、けん玉の取り扱いを始めたとか。かっこいいけん玉を2000円台から買うことができる。

墨田区で、手作りのお店

- なんで墨田区を選んだんですか?

友達が分館(爬虫類館分館:墨田区京島にある日替わり店長のカフェ)の夜の店長をしてて、そこにバンドで一年くらい出入りしてた。その時に、分館のマネージャーから物件を紹介してもらった。改装自由で住居にしても店舗にしてもいいよっていう。住みながらお店やれるなら、リスクも少ないし、現実的にできそうだからいいなーって。 店舗改装の知識とかも全然なかったんだけど、muumuu coffeeの時から何となくできるような自信だけがあって、道具も全然ないのに「自分でできます」って話を進めて笑。電気、水周り関係の基礎部分だけ業者さんに入ってもらった。相談していたリフォーム会社の人が来てくれた時に、その人が見かねて、「壁どうやって作るか知ってるの?」「知りません」みたいな感じで見本の柱みたいなの数本作ってくれて。「こんな感じで同じようにやっていけば壁になるから!」みたいな。あとは現場を覗きに来た人たち(のちに皆友達になりますがこの時は初対面)が、「これ何使ってるの?」「何々です!」「それじゃダメだよ~!こっちがいいよ!」「へい!」っていう風に、周りのできる先人たちがアドバイスをくれたりした。 やりながら、壁とか押してみて「揺れない!あ!できた!」みたいな。 まだちゃんと知り合ってもいない人たちの協力のおかげでできたから本当に感謝感謝。

身体を動かしたのは、ほとんど一人だけど、運んでもらったりとか、何人かじゃないとできない作業とかは手伝ってもらって。最初の方って、自分の頭の中にしか完成図がないから、人にお願いしてもやってもらうことが何もないみたいになるから、形が見えてきて、工程も見えてきたら、お手伝いを募集して、壁をみんなで塗ったりした。

お店を始めてけん玉を取り扱うようになってから、自然とけん玉界隈の人が出入りするようになり、地元のお客さんもけん玉に触れていくようになったんだとか。
墨東日記(ライター・イン・レジデンス)の企画で京島にしばらく滞在したのだけど、歩さんの周りはいつも人がたくさんいて、なんだか楽しいことになっている。
歩さんが最近始めたDJユニット「DJ寿司」のパフォーマンスを見に行った時には、会場が新宿歌舞伎町だったにも関わらず、「墨田区で見たことある人たち」が何人もいて、まさにリトル墨田区ができあがっていた。

DJ SUSHIは一緒にやっている相方のノリくんが、多分ブラジル人?”DJシュラスコ”の動画を見せてくれたのがきっかけ。シュラスコの置いてあるお皿をミキサーに見立てて、ツマミやフェーダーをいじくりまわすように、シュラスコをいじくり食べながら、DJをしてるふりをする。とても楽しい映像だった。で、これ寿司でいけるね!と思って始めた。

最初、分館の周年パーティーの余興としてDJ SUSHIをして、気に入ってくれた友達のオファーで夏には隅田ジャズフェスティバルに参加もしたよ。DJ SUSHIはジャズ要素がないから参加することへ不安もちょっぴりあったんだけど、ちょうどその頃観た映画『ララランド』の中で「ジャズは生ものだ」的なことを言ってたので、「なら寿司もナマモノだからいける!」って自信を持てた。ただ夏だったから、食中毒を恐れて、結局助六寿司にしてナマモノではなくなったけど。

最近では下北沢のライヴハウスでやる機会もあって、パフォーマンスも結構数を重ねてきて、違うことを試してみたくなったから、酢飯とネタを持って行ってステージでついに寿司を握ったよ。結構上手にできたと思う。

お客さんや友達が界隈で行われるイベントや遊びごとに興味を持って足を運んでくれるんだ。DJ SUSHIも楽しんでくれてるよ。一体感が強くからいつも同じ顔ぶれになることも多い。以前、恵比寿のリキッドルームを貸し切ったイベントの時に、全員集合、墨田リキッドルーム状態になってて面白かった。とはいえ枠を作って狭いコミュニティになってるというわけではないし、最近は色々な方面から混ざってきてていい感じになってきてると思うよ。

自分に素直にいつでも楽しく

- お店を続けることで感じることってありますか?

 5年近くお店をやってるけど、経営面では特に何も変わったことはないなぁ。基本的にはいつも楽しく心は健康だよ。歯が痛くなったり、風邪を引いたりはするけど。改装スキルと手遊びスキルは伸びた。楽しい人たちと沢山知り合えた。周りのみんなも本当にけん玉上手になった。けん玉ってシンプルな遊びだから初めての人も楽しみやすいし、挑戦できる技は無限にあるので何年やっててもたのしい。ポイントをおさえれば、誰でも必ずいつかできるしね。

歩さんに教えてもらうと、何回やってもできなかった技ができちゃったりするから不思議

もともとは音楽を中心に生活するはずだったのに、気づいたらけん玉にハマってるし、最近はトランプにもハマってて。楽しい、良いなと思うことを余計なこと考えないでやっていたいなと思うよー!

巻き込み、巻き込まれる
街単位のコミュニティ

歩さんは本当に愉快な人だ。自分自身が「今楽しいと感じるものが何か」に忠実で、それが結果として周りの人々のことも楽しくしている、と感じる。
歩さんに話を聞いたり、お店を訪れたりする中で、個人の魅力はもちろん墨田区・京島の街全体の魅力に気付かされた。それは、一言でいうなら、「緩やかな連帯」。
ルールや、利害関係、単一の文化を背景に作られたわけじゃない、なんとなくだけど確かに感じる「緩やかな連帯」は、そこに住む人たちが、人を巻き込み、人に巻き込まれながら、楽しいと思うことに忠実になった結果、生まれたものだと思う。
一人一人の魅力的な人柄の力に加えて、いくつかのお店がコミュニティのハブとして機能していることも、大きな要因の一だ。近くに住む人たちがなんとなく集まる場所。そうした場所が複数あることが、街単位のコミュニティを生んでいるのだ。

今後も墨田区京島で、「楽しい人」と「楽しい場所」から楽しいものが生まれていくのに期待だな〜!!!

墨東日記

話を聞いた人

灰谷歩さん

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